■単桁数字表示素子
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(1) 表示放電管
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表示放電管には、象徴(ニキシー:米国バローズ社)形と素子(岡谷電機:エルフィン)形がある。
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ニキシー管(Nixie tube / 米国バローズ社:Burroughs corporation)
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Burroughs C3120 ”B-1685145" |
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1956年(昭和31年)に米国バローズ社が冷陰極グロー放電を応用し開発、商品化した表示素子で、ニキシー管(商品名)と呼ばれるネオン式数字放電管である。1960年代初頭から1970年代初頭にかけ、電子式卓上計算機をはじめ計測機器などの表示素子には、このニキシー管が使われていたが、1968年頃になりこのネオン式数字放電管に関する特許料支払い問題(いわゆる"バローズ問題")が日本でクローズアップされていた。これを期にニキシー管にかわる表示デバイスの開発が急がれ、電子式卓上計算機や計測機器自体の小型化とも相まって国内メーカーの表示デバイス開発に拍車がかかった。
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Burroughs C3120 ”B-1685145" |
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発光原理は、ガラス管内に封入されているネオンガスなどのグロー放電現象により発光表示する。ガラス管内には数字や文字、記号などに形どられたそれぞれの陰極と、共通した1個の陽極やネオンガスや水銀、放射性同位元素などが封入され、陽極と陰極間に電圧(170〜300V)を印加し放電表示させる。封入された水銀は陰極から飛散(スパッタ)する物質量を減少させ寿命を長くする役目を担い、放射性同位元素は放電の遅れを改善するため封入されている場合もある。ニキシー管を表示装置として使用する場合、動作回路は比較的簡単(マトリクス回路不要)で、管自体の大きさ(文字の大きさ)も任意で、かなり自由に選択できる。しかし、構造的に同一管内で陰極位置が多重になっており、表示される文字が前後に移動することや、前述したごとく動作電圧も170〜300Vと高く、そのため消費電力も一管についき0.3〜5Wと大きいのが欠点であった。バローズ社とのライセンス契約を結び生産していたメーカーは、国内では岡谷電機、日立製作所、日本無線、日本電気、松下電気、国外ではエリクソン社、レイセオン社などがあった。
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エルフィン管(Elfin / 岡谷電機産業)
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岡谷電機産業が開発したセグメント・タイプの表示放電管で「エルフィン」の商品名で商品化された。動作原理は、ニキシー管と基本的に同じだが、ニキシー管の場合には数字や文字、記号などがお互いに独立して配置されているのに対し、エルフィン管は同一平面状にエッチングによりプリント加工されているため、表示される文字は前後に移動することはない。また、ニキシー管では動作回路にマトリクス回路は不要だが、このエルフィン管の場合は必要である。
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(2) 蛍光表示管(Vacum fluorescent display tubes :VFD)
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蛍光表示管は、1967年(昭和42年)に伊勢電子工業が開発した数字表示電子管で、「アイトロン」や「デジトロン」という商品名で製品化され早川電機に納入された。しかし、他社からの注文が殺到し供給が追いつかない状況になったため、双葉電子工業や日本電気とライセンス契約を結び需要に対応した。尚、1971年1月(昭和46年1月)には、生産量がニキシー管を超えるまでに至った。
真空ガラス管にフィラメント、コントロール・グリッド、スクリーン・グリッド、陽極プレートが配置された三極真空管である。同一平面上に表示されるため広視覚で、緑色発光であるため医学的にも見やすく、目の疲労が少ない利点がある。
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Sharp Compet CS-16A , ISEDENSHI ”DG-12B" |
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RICOH Ricomac 1215S , FUTABA "DG-10W" |
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また、文字の大きさは8〜74mm程度に制限があり、動作回路もマトリクス回路、フィラメント回路が必要であるものの、ニキシー管に比し動作電圧も20〜50Vと低く、消費電力も一管につき0.1〜0.2Wと少ない。しかし、動作電圧が低い反面、外部に電界が生じた場合など、フィラメントから飛散した電子の軌道が変化し動作が不安定になる傾向があった。そこで初期段階では対策として表示部前一面にメッシュを配置し防護していた(SHARP Compet CS-12Aなど)。その後、ガラス内面に透明の導電膜を塗布することで外部電界からの影響を受けなくなるように改良された。
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(3) 光点式表示器(Electro-Optical Display)
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| この表示器は厚さ約1mmのアクリル板に側面から光線を入射すると、数字や記号がドット状に特殊精密加工された部分が浮き出て表示される。特長として3万時間の長寿命白熱ランプを使用することで寿命が長く、放電管に比べ光源と表示部分との距離が短く、光のロスが少なく高輝度で、明るさにむらがないとされた。
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Canon Canola 151
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"light-pipe" display module of Canola 130S |
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岡谷電機産業の沿革によれば、"1963年7月(昭和38年)に英国K.G.M社と光点型表示器の技術および販売契約を締結"とあり、元々は英国K.G.M社が開発した表示器らしい。事実、1966年2月号 電子材料の"Products Guide"には、岡谷電機産業の縦形光点式表示器「RK-EI形」を紹介する記事が掲載されている。
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■多桁数字表示素子
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(1) セプタニクス(SEPTANIX):日本無線
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日本無線(JRC)も、1962年頃からニキシー管の製造を開始していたメーカーの一つであった。1967年に入り伊勢電子工業が開発した蛍光表示管や発光ダイオード(LED)など新しい表示素子の出現により、ニキシー管の需要も減少傾向をたどり、その頃には同社としてもニキシー管に変わる素子の開発に着手していった。そして、1971年春に多桁表示管「セプタニクスT形:SEPTANIX I」を開発、同年10月に量産を開始した。1972年春には後継の「セプタニクスU形:SEPTANIX II」を開発、同年9月より量産を開始した。
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Canon Canola L100A JRC ”J4962" |
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Canon Canola L811 JRC ”J4929A" |
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※SEPTANIX(セプタニクス)は、日本無線の多桁表示放電管の登録商標である。"SEPT"が「七」の意の結合辞、"SEPTA"が「複数の隔壁」の意味をもつ。日本無線の多桁管が7セグメント形で、各桁間を遮蔽する複数の隔壁をもっていることを表している。"NIX"はELECTRONICSの"ニクス"からとったものである。
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SEPTANIX T / Canon Canola L100A JRC ”J4962"
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SEPTANIX U / Canon Canola L811 JRC ”J4929A"
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(2) ラインスター(LINE STAR):日立製作所
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日立製作所も1968年から電子式卓上計算機用の数字表示放電管(ニキシー管)の製造を開始していたが、蛍光表示管の出現や電子式卓上計算機の小型化、集積化など、コスト面や技術的背景の中で、独自開発による多桁数字表示管の開発に着手していた。そして、1972年に「ラインスター」の商品化に成功した。
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Canon Canola L1000 HITACHI ”H1813B" |
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動作原理は、従来の表示放電管と基本的に変わらない冷陰極グロー放電管で、駆動方法も基本的には変わっていない。主な構成部品は板状で、セラミック(ホルステライト)かなる陰極基板、パターンスペーサー、枠スペーサー(後部)、陽極メッシュ、枠スペーサー(前面)、前面ガラスを一体構造としたものである。内部にはネオン・ガスが封入されている。
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Canon Canola L1000
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Front
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Back
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Personal Computer SEIKO 7000
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Front
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(3) フランディパック(FLANDIYPAK):松下電子工業
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松下電器の「フランディパック:FLANDIPAK」は、高品質、高信頼性、平板形、低コストを目的として開発された多桁表示放電管である。構造は2種類の電極版を絶縁物(マイカ)ではさみ込むように配置した基本構造になっており、前面よりガラス板(1)−スクリーン−マイカ−電極板(1)−マイカ−電極板(2)−マイカ−ホルダ−ガラス板(2)−プリント基板というように積み重ねられ1回のプレスで固定されている。各部品は容易に製造可能で、特殊な加工や処理は必要なく量産に適するように考案されている。
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TEAL Uniuse √121-M MATSUSHITA ”CD1201" |
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(4) プラニトロン(PLANITRON):ソニー株式会社
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プラニトロン管はソニーが1970年(昭和45年)に開発した冷陰極グロー放電を基本とした多桁表示放電管である。構造的には、板ガラスの基板に厚膜技術により回路を形成し、上部カバーのガラス・パネルとガラス基板ならびにチップ管のみで、厚さはわずか6mmである。発光面からガラス・パネルとの距離が極めて短いため表示視度が広い。また、特筆すべきは、完全に桁ごとに仕切りのない構造で、桁間に隔壁をもたないかわりに、バリア電極(バイアス電極)で電源電圧のほぼ半分の直流電位を与え、"エアーカーテン効果"と呼ばれた効果により桁ごとの分離を行っている。
このプラニトロンには、アルファ付きタイプ、標準タイプ、超小形タイプ、計数管用(デカトロン)、ドット・マトリクス・パネルなど幾種のバリエーションが製造された。下記写真は、SONY SOBAX ICC-100で使われた標準タイプのプラニトロン管とSONY SOBAX ICC-300で使われた標準タイプを改良した"ニュープラニトロン"である。
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SONY SOBAX ICC-300 ”PE-16SM" |
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PLANITRON / SOBAX ICC-100
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NEW-PLANITRON / SOBAX ICC-300
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(5) マルチ・エイトロン(Multi Eitron):三洋電機株式会社
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多桁表示管「マルチエイトロン」は、三洋電機が開発した単一放電管SMI-01をベースに開発された多桁表示管(SMI-81)で同社のサコム「ICC-808DM」で採用された。アルミナ素材から成る絶縁基板上に数桁の陰極、陽極ならびにリード線を同一平面状に印刷し、ネオン・ガスを主体とする不活性ガスとともにガラス容器に封入したものである。陰極、陽極の数字表示部分は絶縁基板に凹をもたせ桁間に隔壁を設けている。
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SANYO CY-2151 ”SMI-124B" |
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(6) マルチ・エルフィン(Multi Elfin):岡谷電機産業
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表示放電管「エルフィン」の基礎技術を応用し、1968年頃より多桁表示管の検討を行い、マルチエルフィン(MG-112)の開発に逸早く成功していたが、当初はユーザーの要求を満たすことができず、製造コストも高く採算ベースではなかった。同社は1971年に入り安価で信頼性を高めたマルチエルフィン(MG-109,MG-112F)を開発した。
基本的には冷陰極グロー放電管で、セラミック基板に8セグメントの表示素子電極とリード線を焼付け、桁間をスルーホール接続したプリント・サーキット・ボードを作成し、真空容器に不活性ガスとともに封入したものである。
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(7) パナプレックス(Panaplex):米国バローズ社(Burroughs corporation)
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1971年に入り、米国バローズ社はたニキシー管を複合化し低価格化をはかった多桁数字表示装置の"パナプレックス"を発表した。このパナプレックスにはtypeT、typeUがあり、パナプレックスTは、従来のニキシー管と同じ仕様で、パナプレックスUは、ソリッド・ステートLEDより低いワット数(8桁表示で1/3)で動作し、モノシリックLEDのように定電流駆動素子を必要としない特長がある。
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Commodore US*1 ”PANAPLEX II Kr85 BR12259" |
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ユーナ・パナフレックス(Panaflex):ウシオ電機
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ウシオ電機のユーナ・パナフレックスは、ニキシー管を開発した米国バローズ社と、1971年に発表したニキシー管を複合化した「パナプレックスT」の技術提携を結び、同社が高信頼性、量産性をオーソドックスな方法で開発した多桁表示放電管である。1972年初頭から「U-BR0600形:6桁表示、3,000円(1パネル)」の発売を開始している。
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(8) アイトロン(Itron):伊勢電子工業
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伊勢電子が開発した蛍光表示管(Vacum fluorescent display tubes :VFD)を基本とし、1枚のセラミック・プレート上に複数個のセグメントを作り、各桁の同一セグメントを管内にて接続したものである。
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Magazine of September,1972 / "itron" advertisement
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(9) パンジコン(Pandieon):フィリップス
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(10) プラズマ・ディスプレイ・パネル(PDP:Plasma Display Panel):富士通研究所
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1964年にアメリカ・イリノイ大学のD.L. Bitzer氏、H.G. Slottow氏らにより発明されたガス放電形平面表示板である。彼らが発明したものは、絶縁膜を塗布した2枚の電極間にネオン・ガスなどを充填し、電極間に電圧を印加して絶縁膜を介してガス空間を放電発光させる。この素子は、発光および記憶機能をもち、将来の理想的ディスプレイとして注目された。
富士通研究所では、イリノイ大学の指導を受け各種用途別の数字表示パネル(FPN80B1:大形表示用など)、多桁数字表示板(FPN8B14:電卓用、FPN20B7:計測用など)を開発した。
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(11)ユートビュー(UTOVUE):日本電気
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1972年初頭に日本電気はプラズマ放電形多桁数字表示板「NEC"UTOVUE"ユートビューLD8026」を開発し量産に入った。ユートビューの構造は、前面ガラス板−中央スペーサガラス板−後面ガラス板が重ね合わされ、周囲をガラス不リットで封着された構造になっている。特長として、(1)表示面の形状を任意可能、(2)薄形、(3)低消費電力、(4)高輝度、(5)平面、広視角、(6)複合形でセットへのセッティングが容易、(7)安定動作、長寿命、(8)パネル間およびセグメント間の輝度のバラツキが少なく、表示が鮮明で品位が高いなどをうたっていた。LD8026は7セグメントで0〜9までの任意の数字および小数点を表示する12桁タイプである。
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Magazine of march,1972 / "UTOVUE" advertisement
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(12) 発光ダイオード(Light Emitting Diode)
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発光ダイオードは、1962年にイリノイ大学のNick Holonyak Jr.氏によって開発されてから、従来の光源に比べ消費電力が少なく高輝度、高信頼性ということから、固体パイロット・ランプとして需要を伸ばしていった。1969年に入りようやく結晶成長技術の問題点がクリアーされ数字表示素子が開発された。
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HP5082-7405(Hewllet Packard社)
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ヒューレット・パッカード社が開発したLED表示装置で、GaAsP(ガリウム・リン化砒素)の赤色発光で、1桁ずつモノリシックで5組1パッケージ(14pinDIP)でできている。各桁はエポキシ製レンズにより2倍に拡大され、表示される数字の大きさは、高さ2.9mm、幅1.6mmで、7セグメント+小数点から構成されている。
写真は、同社の関数電卓「HP-46」に使われたもので、HP5082-7405を3列にし15桁表示の多桁表示としている。
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Magazine of April,1972 / HEWLETT-PACKARD MEASUREMENT NEWS |
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”HP5082-7405" x3 in HP-46 Display board
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An expansion image is presumed LED click.
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CANON LE-80MのLED表示素子
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